豚の健康診断検査
豚は衛生的な環境をとても好みます。デリケートな動物でもあり、健康状態への配慮も欠かすことができません。下痢や肺炎といった豚に起こりやすい症状を管理することは生産者にとってはとても重要なこととなっています。豚にこのような症状が現れた場合、その原因を迅速に特定し、最適な対策を打つことがきわめて重要です。
弊社では、豚の健康状態を分析し健康な豚を育てるための遺伝子手法による検査技術を培ってきました。現場の獣医師にとっても、迅速で有効な診断と対策のための手助けになると考えています。
検査項目
消化器病病原体の遺伝子検査
- 大腸菌病 ベロ毒素(VT2e)
- 大腸菌病 耐熱性エンテロトキシン(ST)
- 大腸菌病 易熱性エンテロトキシン(LT)
- 大腸菌病 F4:線毛抗原 K88
- 大腸菌病 F5:線毛抗原 K99
- 大腸菌病 F6:線毛抗原 987P
- サルモネラ病
- クロストリジウム(α,β,β2毒素)
- 豚赤痢
- 豚結腸スピロヘータ病
- 増殖性腸炎(ローソニア)
- 豚伝染性胃腸炎(TGE)
- 豚流行性下痢(PED)
- 豚ロタウイルス病
呼吸器病病原体の遺伝子検査
消化器病病原体
大腸菌病
豚の病原性大腸菌に特異的な遺伝子を検出します。ベロ毒素(VT2e)は浮腫病、エンテロトキシン(ST,LT)は下痢を引き起こします。線毛抗原は菌が豚の腸管に付着する“定着因子”です。ベロ毒素とエンテロトキシン 両方を産生する大腸菌も報告されています[1]。これらの疾病は発症すると事故や発育停滞に繋がるため、迅速な病原因子の特定が本病拡散防止に有効です。又、市販の豚用大腸菌ワクチンは、これらの病原因子を無毒化して製品化しています。豚群内の毒素遺伝子の保有状況を調べ、大腸菌ワクチン使用の可否判断にもお使いいただけます。
【参考文献】
1. 臨床と微生物 1996年, 第23巻(臨時増刊): 65-71
クロストリジウム(Clostridium perfringens) β2毒素
壊死性腸炎の病原因子であるβ毒素とは全く異なるタンパク毒素で、子豚の壊死性腸炎に何らかの役割を演じていると考えられています[2]。私たちの検査では、β毒素遺伝子が検出されない豚下痢便の多くからβ2毒素遺伝子が検出されています。
【参考文献】
2. Gene 1997年, vol 203:65-73
豚赤痢
豚赤痢は、粘血性の下痢便の排泄を主徴とし、発育遅延及び飼料効率の低下をもたらす腸管感染症です。豚舎単位で発生することが多くあり、平成 16 年 2 月のと畜場法施行規則の一部改正に伴い、本疾病が全部廃棄処分の対象となったことから経済的損失も大きいため、速やかに対策を打ち清浄化を図ることが重要です。
豚結腸スピロヘータ病
軽度の豚赤痢様症状を示し、原因菌(B.pilosicoli)は豚赤痢菌(B.hyodysenteriae)と同じブラキスピラ属菌です。豚赤痢と本病の鑑別にはPCR法が有効です。
増殖性腸炎(PPE)
原因菌のローソニア(Lawsonia intracellularis)は人工培養ができないため、本病の原因究明にはPCRが必須です。
豚伝染性胃腸炎(TGE)と豚流行性下痢(PED)
豚伝染性胃腸炎(TGE)の方が症状は重篤だと言われていますが、野外での両疾病は臨床症状が似通っており、区別は困難です。PCRでは両ウイルスの違いを簡便かつ迅速に知ることができます。
呼吸器病病原体
PRRSウイルス(PRRSV)
PRRS(Porcine Reproductive and Respiratory Syndrome; 豚繁殖・呼吸器病症候群)は現在の養豚界において最も経済的損失が大きい疾病の一つです。PRRSウイルス(以下、PRRSVと表現します)は母豚では異常産や流産を引き起こし、子豚では肺炎により発育不良や死に至らしめます。PRRSVは免疫システムに重要なマクロファージに感染して、その細胞を殺したり、機能を低下させるため、豚は他の感染症にも罹患しやすくなり、複合感染や二次感染が引き起こされます。特に免疫力の弱い時期の子豚が罹患する場合が多く、その時期の事故率を押し上げるとともに、その後の日和見感染増加や増体スピードの低下により、トータルで甚大な被害となります。
被害を減少させるためには、オールインオールアウトを実施して、豚を導入する前に豚舎を十分洗浄することが重要です。しかし、導入する豚がすでにウイルスを保有していれば、きれいな豚舎に導入しても新たな感染が起こってしまいます。新しく豚を導入する際に、抗体検査や遺伝子検出検査を行い、感染している豚がいないか確認することが重要です。
PRRSVは農場内で遺伝子を変異させながら感染を繰り返すため、完全なワクチンの効果が得にくい農場もあると言われています。ウイルス株の遺伝子配列の違いによる分類を遺伝子型といいますが、PRRSV遺伝子型は農場毎に異なっていることが多く[3]、極端な場合には一農場内に複数の遺伝子型が存在することもあります。ウイルスは変異することによって、病原性が強くなることもあります。1994年に米国で発生したPRRSによる流産の嵐は新しく変異したPRRSウイルスが原因とされています。農場の防疫上、農場に存在するPRRSVの遺伝子型を把握する、あるいは遺伝子配列の解析を行って、新しい株の侵入を監視しておくことはワクチンの使い方を考える上でも重要です。
【参考文献】
3. Arch Virol 2005年, Vol 150: 2313-2324
豚サーコウイルス2型(PCV2)
近年、豚サーコウイルス2型(porcine circovirus type2; PCV2)が原因と考えられる事故の急増が各地で報告されるようになりました。PCV2はリンパ節に入り込み免疫機能を低下させながら増殖し、全身性に機能不全をもたらします。その症状により様々な呼び名がつけられており、離乳子豚で発症する離乳後多臓器性発育不良症候群(Postweaning Multisystemic Wasting Syndrome:PMWS)や主に肥育豚が腎障害をきたす豚皮膚炎腎症症候群(Porcine Dermatitis and Nephropathy Syndrome; PDNS)などが知られています。最近ではそれらすべてをまとめてPCVAD(Porcine Circo Virus Associated Disease; 豚サーコウイルス関連病)と呼ばれるようになっています。
動物衛生研究所による2000年時の調査では、国内のほぼ全ての農場からPCV2の遺伝子が検出されています[4]。しかし、当時はPCV2が原因と考えられる事故は最近ほど目立ちませんでした。PCV2の遺伝子を調べると、海外では北米型とヨーロッパ型の二種類に分類されることが知られています。最近、動物衛生研究所が国内に存在するPCV2の遺伝子型を調べたところ、北米型、ヨーロッパ型、日本型の3種類の存在が確認されました[5]。2005〜2006年頃より北米や日本ではPCVADによる事故が急増していますが、事故が急増した農場ではヨーロッパ型(特にフランス株)が高率に分離されることが海外で報告されています[6]。日本にヨーロッパ型が昔から存在したのか、最近になって侵入したのかはまだはっきりしていませんが、何らかの要因が過去にないPCV2による事故増加をもたらしていることは疑う余地はありません。このようなことから、農場に存在するPCV2の遺伝子型を調べておくことは管理上重要と考えられます。 また、PCV2は非常に強固なウイルスで、逆性石鹸など一般的な消毒薬では死なない上、高温にも耐えることが知られています。水洗いしただけの豚舎ではまだ多数のウイルスが残存しているケースがあります。豚舎環境中のPCV2の残存を確認したり、その量を測定することで消毒法の改善を行うことも重要です。
【参考文献】
4. 動物衛生研究所研究報告 2001年, 第109号: 9-16
5. 第144回日本獣医学会講演要旨集 2007年: 83
6. Arch Virol 2007年, vol 152: 1035-1044
マイコプラズマ肺炎
マイコプラズマは豚に慢性呼吸器疾患をもたらす病原体の代表です。PRRSと混合感染し、被害が増幅されるケースが多く認められます。特に最近は肺炎時にPRRSと同時にマイコプラズマ・ハイオライニスが検出される例が多々あり、症状を増悪させる因子として重要視されています。
豚胸膜肺炎(アクチノバチルス・プルロニュモニエ;App)
アクチノバチルス・プルロニュモニエ(以下Appと表現します。)感染症は、豚胸膜肺炎を起こす、養豚産業に大きな経済的被害をもたらしている疾病の1つです。Appは1〜12の血清型があり、その病原因子として3種類の毒素(Apx I,II,III)と外膜タンパク(OMP)が知られています。[7] Appは血清型によって病原性の強弱がありますが、これはこの病原因子の保有状況に違いがあることと関係しています。菌から遺伝子を抽出して、PCR法で病原因子の保有状況を調べることができます。現在日本国内では数種類のAppワクチンが上市されていますが、それぞれ特徴がありますので、自農場に存在するAppのタイプを十分確認して、採用するワクチンを決める必要があります
【参考文献】
7. Trends Micobiol. 1995年,vol3,No.7:257-261


